データは統一的に収集できる枠組みをつくるべきであるが、『判断』は共有されなくてもよい。

全体の状況を判断するためにデータを共有することは意味がありますが、(帰還するか、移住するかなどの)個々の『判断』を共有する必要はありません。原理的に言えば、個人や家族単位で違ってもおかしくありません。その理由は、被曝するかしないかの判断(正当化)は、リスクの大きさを被曝の回避行動の負担で測っているからです。この負担の判断は個人的なものだから、線量だけでは決まりません。移住することで失うものが少ない人は、移住を選ぶだろうし、逆にどうしても住み続けたい人もいる。

ただし、現実的にインフラの支援がなく生活できる人は少ないので、集落単位で判断するのも一つのやり方だと思います。

参考レベルは、国全体、福島全体や、自治体単位でも共通である必要はない。参考レベルは『手当』の基準だから、実際に『手当』する単位で設定するべきもの。

今回の事故での汚染状況は、自治体はおろか、集落単位でも異なる場合があります。その場合の参考レベルの設定は、現実的に改善策を担当する単位で設定しないと、単に『数字を言ってみただけ』に終わります。従って、自治体やもっと細かい集落の単位で設定して全く問題ない。逆に、参考レベルを越えた人の一人ずつに対応できない大きさで決めると、現実的な意義がなくなります。
今回、政府の説明では『国が』と言っていて、ICRP111でも『国が設定することができる』と書いてありますが、参照レベルの実際の使い道を考えると、それを越えている人がいるところで、具体的に対応できることが必要です。

再度強調しておきたいこと。ICRP111のいう参考レベルは、『これを越えてはいけない値』ではなく、『必ず越える人がでるように設定しないといけない』。

これは、何度言っても分かってくれない人がいますが、ICRP111で述べられている参考レベルは、優先的に手当する人を選別するための指標です。だから、必ず越える人がいるように設定しないといけない。越える人がいないような参考レベルには意味がありません。
現在、福島で人の住んでいるところでは、それこそICRP111が長期目標と言っている年1mSvでも設定できます。追加被曝で年1mSvを越えている人は極わずか。避難解除準備区域でも、ちゃんとICRP111の文言通り、年10mSv以下で設定できるところが過半だと思います。この理由は、空間線量からの推定に使っている係数0.6が過大で、実際には0.3程度だからです。(福島民報の中西さんの記事

また、政府は長期的に参考レベルを年1mSvに設定すると言っていますが、国も、どの自治体も現存被曝状況の参考レベルを公言したことはありません。

避難解除を空間線量で決めてはいけない。実効線量で決めるべき。

これは、森口先生が指摘されていたことでもありますが、空間線量での値と個人の実効線量の値は大きく違い、実際には3分の1程度になります(遮蔽状況で個人により違う)。

ICRP111は年単位の実効線量で個人の被曝を管理するように求めており、参考レベルも年単位の追加被曝の実効線量で設定するように求めています。従って、避難の解除(ICRP111の用語で言えば正当化)も、個人の実効線量で決めるべきです。

ICRP111
(45) The Commission recommends that reference levels, set in terms of individual annual effective residual dose (mSv/year), should be used in conjunction with the planning and implementation of the optimisation process for exposures in existing exposure situations.

緊急時被曝状況の空間線量20mSv/年は『もっとも厳しい』『安全サイドにたった』基準ではない。避難の危険を政府として認識すべき。

まず、最初に、今回の政府の措置で20mSv/年の空間線量(から計算した仮想的実効線量)で20mSv/年の参考レベルを設定し、それ以上のところは避難することにした政策を『最も厳しい』『安全サイド』にたった政策であると政府の担当者が述べられていましたが、それは、『被曝以外のリスクを無視した場合』のみになりたつ理屈で、現に避難により原発事故の関連死が出ている以上(東京新聞の記事)、全くなりたたない理屈です。

2年半経ってしまった今となっては、事故直後の判断は仕方がないところがありますが、その後判断せず放置し続けていることには責任があります。政府としてALARAを『社会経済的条件を考慮して合理的に可能な限り被曝を低減する』と理解しているのだから、社会経済的条件を無視して設定した20mSv/年の危険性を再認識することが必要です。仮設住宅に押込められて、体調を崩してなくなる方がでているようでは、考慮しなければならない『社会経済的条件』のうちの大事なものを見落としています。今でも、人は毎年死んでいます。いわゆる『安全サイド』、実際には危険な基準にこだわることで、現実に困る人を見捨てないようにお願いしたい。

竹野内真理はデタラメを書き続けている。

例えば、Easybotterで投稿されているこのツイ
キャッシュ
には、

Mari Takenouchi ‏@mariscontact

エートスでの田中俊一の講演を送りますね。「それでも福島県民は、福島県で生活しなけれ ばならない!除染した廃棄物処分を受け入れることは出来ませんか? 」だとお!!!http://ethos-fukushima.blogspot.jp/2012/03/syun-ichi-tanaka …...

と書いてあり、しかもこのリンクが壊れているのがお粗末なのですが、この田中俊一さんの発表は、ICRPの第二回ダイアログセミナーのもので、そのページに資料が載っています。第二回なので、だいぶ下の方ですが、このファイルが発表資料です。

田中俊一さんは、原子力規制委員会の委員長になったので、それを気に入らない人がいるのですが、上に書いたように、田中さんの考えは田中さんのもの。福島のエートスは田中さんと同じ『参加者という立場』で、ICRPダイアログセミナーに参加しているのであって、田中さんの発表に対して直接賛成・反対をいう立場にありません。