意味がない理由(4)重複があろうとなかろうと、甲状腺癌になるかならないかで、治療方針が決まるわけだから、この検査は、全く意味がありません。

仮に、遺伝子検査をして、7q11の重複があるのかないのか分かったとします。そうすると、4通りの場合があり、普通は以下のように対応することになります。
1)重複がなく、甲状腺癌にならなかった場合は、何もその先しない。
2)重複がなく、甲状腺癌になった場合は、甲状腺癌の治療を行う。
3)重複があり、甲状腺癌にならなかった場合は、何もその先しない。
4)重複があり、甲状腺癌になった場合は、甲状腺癌の治療を行う。

従って、重複があろうと、なかろうと、通常はすることは同じ。逆に、この検査を意味があるものにするためには、

5)重複がある場合に、甲状腺癌になっていなくても、甲状腺を予防的に切除するなど、『先回りの治療』を行う

という前提でなければおかしい。こういう『先回りの治療』が、負荷の小さい物なら構いません。しかし、外科手術など侵襲の大きなものは話が違う。病気になるかならないか分からない人を先回りで治療するのは、倫理的に大きな問題があります。例えば、BRCA1遺伝子に変異があり、乳癌家系である人の乳房を、癌の発症する前に切除して良いのか?というのと似ています。甲状腺癌の場合、負荷の小さい予防法などありませんから、私はそういう方針は認められないと考えます。人間は死ぬまでにはたいてい病気になります。首を切ってしまえば、あらゆる癌にはならないけれど、それを治療とは呼ばない。

しかも、この検査に金と手間を浪費するとなれば、愚かとしか言いようがない。

以下、問題の論文と、私がなぜ上のように考えたのか、理由を説明します。