RET遺伝子の構造。RET/PTC組換え


RET遺伝子からできる蛋白質の構造と、組換えでできる融合蛋白質


RET(rearranged during transfection)は、もとはNIH3T3細胞で組み替えをおこす癌遺伝子として発見されました。RETは染色体の10q11.2にあり、増殖因子であるGDNFの受容体です。一回膜貫通構造で、細胞内にチロシンキナーゼ領域をもちます。

RETは甲状腺の傍濾胞細胞であるC細胞には発現してますが、濾胞細胞では通常発現していません。濾胞細胞で染色体組み替えがおき、適当な遺伝子の5'端とチロシンキナーゼ領域を含むRETの3'端が融合するように遺伝子組み換えがおこることをRET/PTC組換えと呼びます。*1 RETの方は単一の遺伝子ですが、PTCはRETと融合する遺伝子群のことで、単一の遺伝子の名前ではありません*2

RET遺伝子の組み換えはRETのイントロン11でおこり、融合する相手方の遺伝子は、二量体領域と、甲状腺濾胞細胞でRETを発現可能にするプロモーターを持ちます。甲状腺濾胞細胞で発現できるようになり、さらに二量体になることで、RETのチロシンキナーゼ領域は、リガンドに依存することなく勝手に活性化し、SHCを介して下流のRAS-BRAF-MAPKカスケードを活性化できるようになります。甲状腺乳頭癌の大部分では、RET/PTC1かRET/PTC3の組み替えを起こしています。

RET/PTC1や、RET/PTC3を人工的に作って、変異遺伝子を強発現するトランスジェニックマウスを作成すると甲状腺癌を発症します。また、甲状腺細胞を培養して、RET/PTCを遺伝子導入すると、甲状腺特異的な遺伝子発現と、細胞の分化を抑制します(つまり癌化していることを示唆している)。従って、RET/PTCの組み替えは甲状腺癌をひきおこすことが強く示唆されます。このとき、下流のMAPKカスケードの活性化には、BRAFが機能していることが必要であることが知られています。RET/PTCの組換えは、甲状腺癌全体で起きていることもあるし、一部だけのこともあります。RET/PTC組み替えは、チェルノブイリでの甲状腺癌では50-80%と高い頻度でみられ*3、また、青少年の甲状腺癌では成人よりも比較的高い頻度でおこります(40−70%)。従って、次に出てくるBRAF変異は少ないことになります。

*1:PTCは、papillary thyroid carcinoma = 甲状腺乳頭癌のこと

*2:PTC1は、H4遺伝子が相手。PTC2はR1α、PTC3はELE1。

*3:初期はRET/PTC3、その後RET/PTC1が増えた