ドメインパーキング

『蹇々録』は岩波文庫で読みました。今も時々読んでいます。
日本が国家としてのるかそるかの博打をうち、また三国干渉によって挫折も経験する、
その陸奥宗光外相本人の回想録です。陸奥本人は病弱ですぐ死んでしまいます。
この『蹇々録』で、なにより驚かされることは、

  • こういう『国家機密』(になりかねないもの)を平然と外相本人が出版していること

がまず第一。すごい度胸です。実際、伊藤博文陸奥宗光に、おだやかならざる内容
だからと、出版の延期を頼みますが、陸奥は『もう出してしまったものは仕方がない』
と返事をしています。

『蹇々録』的には、三国干渉の力学の解説と、それから日本のとりえた選択肢が焦点
です。要点は

  • 三国干渉、つまり遼東半島を清国へ還付せよというロシア・ドイツ・フランスの要求

が、どういうヨーロッパでの情勢によるのかを情報収拾のうえ分析していること

の意見を中心に書いていること

であって、なぜに朝鮮半島の安定化が大事なのかは直接には書いていません。『蹇々録』
では、朝鮮の改革第三期は差し障りがあるので、書かない、とされていて、全貌を掴む
ことはできません。陸奥的には、日清両国の衝突の場が朝鮮半島であっただけだと思い
ます。

私の意見では、
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政府の文明(日本)対野蛮(清)の戦いというようなおためごかしを
信じた日本人は,日清戦争への義勇兵を多く組織します。民間も,朝鮮への植民に期待していたものでしょう。

という枠組みで括るのは間違っていると思います。確かに、日本が『文明』と『万国公法』
にのっとって戦争を行ったのは事実ですが、『文明』は『自立した政府』を意味しています。
日本がしたかったのは、端的に言えば、『明治維新という革命の輸出』であって、朝鮮半島
が第三国に占領されると日本の存立が危なくなるという危機意識が根底にあるのだと思いま
す。実際、明治初期には、ロシアは対馬を占領していますし、イギリスは巨文島を占領して
います。日清戦争後には、ロシアは朝鮮半島の龍嚴浦に軍事基地を作り、日本は日露戦争
決意しています。

総合すると、日本側の立場からは、朝鮮半島が無力である以上、力の実体にはなりえず、
朝鮮人のための朝鮮半島の近代化』など日清日露のころはどうでもよかったのではないで
しょうか。いかなる方策であれ、朝鮮半島が安定化すればよかったのであって、李氏朝鮮
それができない以上、日本が責任をとる、と決断したということです。

朝鮮半島処分の閣議は、

日韓併合小史, 山辺健太郎, 岩波新書

に引用されているので、その当時の決定でも、朝鮮を半永久的に保護下におく、という案を
採用しています。これについては、また後程。