Naomi Wolf and The End of America

The End of America: Letter of Warning to a Young Patriot

The End of America: Letter of Warning to a Young Patriot

Naomi Wolfのことを最初に聞いたのは、例によってBrian Lehrer Showでした。

Losing Democracy | The Brian Lehrer Show | WNYC
彼女はさくさくした子音を良く使う白人の女性(例えばWNYCのAndrea Bernstein)より少し母音が強い、心地の良い声をしています。ナオミ・ウルフは最近書いた本を紹介するために来ていたのです。*1

ナオミは自分の友人の話をしていました。

その友人はドイツでユダヤ人虐殺を生き延びた人の子供で、ナオミに『アメリカで今起きていることは、昔のドイツでナチがやったことと同じだ』と繰り返しいうのだそうです。ナオミは『アメリカとナチスを比較するのはとんでもない、全然違う』と反発していましたが、その友達は頑として意見を変えず、ナオミに『昔ドイツであったこと』を無理矢理に読ませます。すると、その友人の話していたことはナチの全盛時代のことではなくて、1930年代初頭、ワイマール共和国がまだ存在していた頃のことであるのが分かります。大衆の恐怖を操作し、ナチが少しずつ合法的に民主社会を閉塞させていく手法が現在のアメリカと同じである、というのです。使われているスローガンやキーワードが酷似しているのをみて、ナオミは愕然とします。*2

自由社会を抹殺する10段階

ナオミ・ウルフはいくつかの似た記事を書いています。
Ten Steps To Close Down an Open Society | HuffPost
http://www.guardian.co.uk/print/0,,329789179-110878,00.html
ナオミ・ウルフはこのナチスのとった方針とアメリカの政治手法の類似は偶然ではなく、自由社会を閉塞させるありふれた手法であると主張します。イタリアでのムッソリーニ、ドイツでのヒットラー、ロシアでのスターリン、皆、相互に切磋琢磨した結果、大衆操作の手法が確立されたというわけです。その後、様々な小粒の独裁者もすべてこれら大物のお手本を見習っているので、結果的に同じ手法を使うことになる、と主張します。

その10段階とは、

  1. Invoke a terrifying internal and external enemy 恐怖を引き起こす国内外の敵を作る
  2. Create a gulag 収容所を作る
  3. Develop a thug caste 無法者集団を作る
  4. Set up an internal surveillance system 国内に監視体制を敷く
  5. Harass citizens' groups 市民グループにいやがらせをする
  6. Engage in arbitrary detention and release 理由なき逮捕釈放をくりかえす
  7. Target key individuals 著名人を攻撃目標にする
  8. Control the press メディアを支配下におく
  9. Dissent equals treason 反対意見は国家反逆であるとする
  10. Suspend the rule of law 法の支配を停止する

ナオミ・ウルフは、

  • 敵とはテロリストであり
  • 収容所はグアンタナモであり
  • 無法者集団とは、イラクカトリーナ台風の後にかり出されたブラックウォーターという傭兵であり
  • 監視体制とは、NSAによる違法な電話や電子情報の盗聴であり

半分くらいは目的が達成されているといいます。
ナオミ・ウルフは後の段階へ進ませる前に、ここで止めなくてはならないと主張します。

ナオミ・ウルフの講演とインタビュー

ナオミ・ウルフが話しているのをみることができます。大筋の話は同じです。

コメディアンのスティーブン・コルベールとも真面目に話しています。
コルベールのここでの芸は少しものたりなく感じます。

*1:ナオミ・ウルフはいわゆるフェミニスト論者でもちろんリベラルです。

*2:ここで話されていないけれど前提になっているのは、ナオミ・ウルフはユダヤ人であり、その友人はおそらくドイツ系のユダヤ人で、ナチに迫害された親がアメリカに移民してきているということです。ナチとホロコーストアメリカでは、特にユダヤ系のアメリカ人には強烈な記憶を呼び起こす装置になっています。『ナチにもいいところがある』論は、日本でなら、『オウムにもいいところがある』論くらいに忌まわしい感じがします。