論文の内容を見てみる。

ここで引用されている最初の論文は、Kaatsch et. al. Int J Cancer 122:721, 2008のことです。

この研究で調べたのは、ドイツの原発近辺での小児白血病の増加が意味のあるのことなのか、ということです。ドイツでは、ドイツ小児がん登録 = German Child Cancer Registry (GCCR)が、癌の記録の95%位を押さえているので、ほとんどの小児白血病の患者がどこに住んでいるのかが分かります。そこで、小児白血病の患者一人に対して、見合った対照の子供を3人決めます。

Kaatsch, 2008

For all cases, controls from the records of the appropriate registrar’s office were selected. The controls were matched for date of birth (as closely as possible), age, sex and nuclear power plant area (at the date of diagnosis). First, communities out of the respective area were selected randomly by weighting communities according to their population (considering sex, age, year of diagnosis). Communities were then asked to provide addresses and names of children fitting the matching criteria. From these lists, the control with date of birth closest to that of the case was selected.

全ての小児白血病の患者に対して、適切な登記所の記録から対照を選んだ。対照は、誕生日(出来る限り)、年齢、性別、(小児白血病患者の診断時の)原発の地域に合わせた。最初に、コミュニティの人口構成を考慮して(性別、年齢、診断時の年を考えて)、それぞれの地域のコミュニティをランダムに選んだ。そして、条件に合う子供の名前と住所をそのコミュニティに照会した。これらのリストから、小児白血病患者の生年月日に最も近い対照となる子供を選んだ。


これで、年齢性別を合わせた対照をそろえました。Table IIをみると、年齢性別の構成がほとんど同じであるのが分かります。面倒な作業をよく頑張りました。ちなみに、この表では、対照の所にも白血病の欄がありますが、これは、小児白血病の患者に対応する、対照の患者ではない人たちという意味でしょう。

こうして、選んだ対照の集団と、小児白血病の集団を比較して、*原発の近くにどちらが多く住んでいるのか*を調べたわけです。*1再帰曲線を仮定して、オッヅ比(Odds Ratio)を計算しました。距離で輪切りにしてのオッヅ比の計算もしています。*2距離に反比例する再帰曲線を書くと、正の相関があるし、距離で輪切りにして調べても、原発からの距離5キロ以下のところのオッヅ比は2.27になると言っています(Table IV)。

これがECRR2010でも言っていた、小児白血病が2倍になる、という話です。ただ、方法がすべて正しいと認めても、この調べ方では*2倍の小児白血病の患者が、原発近郊に住んでいる*という方が正しい。

*1:原発のそばにいる人たちで小児白血病の頻度が多くなっているのを調べた訳ではありません。それは別の論文があります。

*2:この場合は、例えば、患者が原発の近くに住んでいる割合をp、対照が原発の近くに住んでいる割合をqとすると、p(1-q)/q(1-p)のこと。pやqが小さくp<<1, q<<1なら、だいたい相対危険度 Relative Risk p/qと同じになる。