マイケル=クライトンは著書のState Of Fearで、『科学的真理』から引き出された『社会的倫理』を批判している。

State of Fear

State of Fear

私が好きなマイケル=クライトンの本のなかにState of Fearというエコテロリズムの話があります。その本自体は、地球温暖化(=この場合の科学的真理)だから脱炭素社会をめざすべき(=この場合の社会的倫理)という話の欺瞞性を手厳しく批判しています。クライトンは、オリジナルの論文を読むと、そんな結論にはならない、と主張しています。本編は娯楽ものとしても面白い。ただあの本で白眉なのは、『ユダヤ人は劣等人種』というのが、『科学』であったという本編じゃない部分です。ヒトラーが世に出る少し前は、アメリカでもドイツでも、社会ダーウィン主義=Social Darwinismがさかんで、人種的優生学が公然と大学でも講義されていたし、大真面目に『劣等人種』の頭蓋骨を測ったりしていました。アメリカで優生学がすたれたのは、ヒトラーと政治的に対立してからのことです。ヒトラーに勝ったアメリカでは、『人種的優生学ヒトラー=悪』ということになって、そんなアメリカでの歴史は何もなかったのように忘れられています。