患者集団が発生する原因についての4つの仮説
このレビューでは、4つの主要な仮説を挙げていて、
- 核施設から排出される放射性物質や化学物質によるという説
- 子供が受精する前の父親の電離放射線被曝によるという説
- 大規模工事による人口流入による住民の混住による感染によるという説
- もともと原発予定地にあった、なんらかの白血病の危険因子によるという説
です。
それぞれに関して、簡単に要約すると、
- イギリス、フランスの例では放射性物質の流出は自然放射線よりはるかに低く説明にならない。ドイツの例ではクルーメルとゲエストハフト原発でも放射線被曝は増えていない。核施設から出てくるかもしれない原因化学物質は同定されていない。
- 1990年にガードナーにより提唱された父親の職業的被曝によるという説は再現性がとれておらず、他の研究で否定されている。
- 1998年にキンレンが提唱した、新旧住民の混住による感染が白血病の病因ではないか、という説は、いくつかの研究により支持されている。時間的、空間的に白血病が患者集団を作る報告は複数ある。ただ、病原体は同定されていない。
- その他、高圧送電線による電磁波、庭や畑で使用される殺虫剤、工業施設に近いこと、自然放射線が高いこと、などが言われているが、確立した物はない。
このレビューの著者達は、感染説が最も有力であると言っています。また、KiKKの研究では、他の研究と整合性がないこと(これはSpixの論文の筆者達も認めている)、大規模調査では、0−14、0−24歳と年代幅をとると白血病は増えていないことを挙げて、批判しています。
以上が、原発と白血病の関係の現状です。先日、イギリスでのCOMARE研究がNature Newsに出ていましたが、そこでの論点もすべてこのレビューは網羅しています。原発近傍で白血病患者の集団が発生しているというのは一般化できない、という結論は同じです。『ドイツ原発で白血病が増えている』『ドイツ原発で癌が増えている』というのが最近よく流れていますが、それの正体はこういうことです。