この論文から言えること、いえないこと。

この論文から言えることは、7q11の重複はチェルノブイリでのヨウ素被曝に強く相関しているということです。この重複は、被曝していない検体には全く見つからないこと、また、ヨウ素被曝が甲状腺癌を引き起こす事を強く示唆する疫学のデータを考えると、ヨウ素被曝がおそらく原因であろう、と推測できます。あと、この重複により、いくつかの遺伝子の発現が増えていることは調べられていますが、それが癌に結びつくかは不明です。

従って、この論文から、『おそらくヨウ素被曝がこの重複を引き起こす』事は強く示唆されていて、この領域の遺伝子産物が発癌に寄与している可能性はあります。しかしながら、この重複が発癌の原因であると示されている訳ではなく、因果関係を示す事は今後の課題となります。

最後に。このゲノム科学を使った論文の結果では、ヨウ素被曝の危険性の評価(低線量であろうと、高線量であろうと)は全く変わっておらず、線量での危険度を評価する根拠は、チェルノブイリでの疫学データしかありません。そもそも、この論文で使った検体は、全く被曝線量が分からないので、最初から『低線量被曝』の問題ではないのです。だから、『最近のゲノム科学で低線量被曝の研究が進んだ』というのは、全く的外れです。