この論文の2つの特徴は、『原発からの距離』との関係であること、『因果関係』ではないこと。

 前述の、80年代では有意になることが90年代では有意になっていない、という問題のほかに、Kaatsch, 2008の論文と同じく、この論文には大きな字で『ただし』と書いておかなければならないことがあります。
 もともと、このKiKKの二つの論文で本当に言いたかった本音は、
 『原発からの放射能』が原因で『癌』が増える
ということです。ICRPのLNTを持ち出したり、再帰曲線を原発からの距離に反比例するようにしたりしたのは、この書いていない本音に基づいています。ところが、通常運転の原発からでる放射能は実測するには低過ぎる。計算してみると、自然放射線の1/1000くらいだろう。

そこで、KiKKのグループが行った独創的なことは、
 患者の住所と原発の煙突からの距離を測ること
でした。つまり、もごもごと口ごもりながら使っている仮定は
 『原発からの放射能』は『原発の煙突からの距離』で代表できる
ということです。放射能被曝が実測されていない以上、この根拠はなんら示されていません。そういうことにしたい、ということです。だから、表立っては論文に『原発からの放射能が危険因子』とは書いていません。書ける訳がありません。論文では、
 『原発の煙突からの距離』と『癌の患者』が相関する、
という主張をしています。
 だから、ECRRのいうように『被曝と白血病の関係』を述べたものではありません。こっちは書いていない本音の方です。

 もう一つ大事な事は、『原発からの距離』と白血病の関係は、相関であって、因果関係ではないことです。原発の近傍以外でこのような白血病患者集団が存在しない(もしくはする)ということで相関関係を補強することはできます*1。因果関係を示すためには、別の研究が必要です。例えば、原発を作ったら白血病が増え、なくしたら減ることが必要になります。
 『相関』は『因果関係』ではないから、『危険因子=リスクファクター』と呼ぶわけです。これは、因果関係を示さずに、因果関係を匂わせる作文上の方法です。査読をする人は、当然、こういうケースコントロール研究では因果関係を示せないと言ってくるから、本音と建前の妥協点が、『危険因子』になります。

もう一つ、この論文では
 個人個人の癌の発生は(病気本来の性質として)独立であって、一様におきる
ということがアプリオリに仮定されています。実はこの仮定は全ての場合に正しいとは言えません。例えば、今話題の食中毒ですが、これは汚染経路に従って患者が発生し、一様には発生しません。同様に、小児白血病感染症や免疫疾患によって起こっているなら、クラスタを作ってもおかしくありません。これは何も突飛な話ではなく、実際、西日本に多い成人T細胞白血病HTLV-1というウイルスが原因で輸血、性交、授乳により感染します。この手の考え方をすれば、キンレン等が言うように、白血病は人口移動が激しいところでおこる感染症か免疫反応ではないのか?という意見もありえます。

*1:これが私なら査読意見としてつけると言ったものの2番目のもの