ECRRの主張する被曝によるがん患者の増加は過激な誇張
こういう論文から、ECRRへ至る論理はどうなっているのか、というと、
(1)ドイツの原発の原発近傍でいくつかの小児白血病の患者集団がある。(これが最初の事実)
個別の患者集団を*原発すべて*に一般化して、
(2)従って、『原発近傍に住むことは小児白血病の危険因子』(Kaatsch, 2008) (ただ、差があるのは原発5キロの近傍だけで、最初の事実と変わっていない)
さらに、この小児白血病の患者集団を小児癌一般とまぜあわせると、
(3)『原発近傍に住むことは小児癌の危険因子』(Spix, 2008)(でもよく読むと、小児白血病のみしか当てはまらないから、最初の事実と変わっていない)
ここまでは、原発の煙突からの距離の話でしたが、ここで放射線被曝の話がでてきます。
原発近傍で、原発による放射線被曝は自然放射線被曝のざっと1/1000(これは事実)
ここで、論文の筆者たちが言っていないことで、ECRRが付け加えたことは、
(4)『だから、ICRPのモデルは被曝を1000倍過小評価していると論文の筆者が言っている。』
この『だから』というのは本当は笑うところです。『放射能被曝が自然放射線の1/1000だからこの結果は説明できない』というのを、『放射能被曝の効果が実は1000倍なのだ』と結論づけているわけです。こういう風に『根拠のない数字』を勝手に付け加えて良いなら、どういう結論でも作る事ができます。
昔読んだ落語に、動物の爪が割れていると足が速くなる、と主張する人の話があります。『馬の爪は割れていないが、牛より足は速いじゃねえか』というと『そりゃあ、おまえさん、馬の爪が割れていれば、本当は目にも留まらぬ速さで走るってえことよ。割れてないから、あの位ですんでんだ。』こういう人は無敵です。ただ、牛より馬の足が速い事実は変わりませんから、事実とは関係のない話をしているというだけのことです。普通の日本語ではこういうのを『笑い話』とか、『妄想』と呼びます。この『だから』が、納得できる、理解できるという人は、科学で何かを理解することは止めた方が良いと思う*1。