原発一般では、小児白血病は増えていない。

原発一般で小児白血病が増えているかどうかを知るのには、レビューを調べるのが簡単です。私が良いと思うのは、Laurier, Radiat Prot Dosimetry 132:182, 2008です。この論文は、2008年の時点でpubmedに載っている関連論文を全部集めてその分析をしています。
この論文の要旨では、

The review confirms that some clusters of childhood leukaemia cases exist locally. However, results based on multi-site studies around nuclear installations do not indicate an increased risk globally.
このレビューでは、小児白血病の患者集団が特定の場所で存在することを確認した。しかし、多数の各施設を対照にした研究では、全般的な白血病のリスクの上昇は認められない。

これにつきます。

局所的な白血病患者集団は存在する。しかし、原発全部には一般化できない。

この論文は局所的な研究についても述べています。この特定の患者集団は、実は、有名な物が繰り返し出てくるので、細かくなりますが、出しておきます。

Among the 198 sites reported, three excesses met the stated evaluation criteria and could be considered as confirmed clusters. The oldest one is the Seascale cluster, located near the Sellafield reprocessing plant in England (West Cumbria). It was detected in 1984, based on five observed cases of younger than 25 y of age living in Seascale where less than one case was expected(8). Subsequently, numerous other studies have reanalysed the situation around Sellafield and confirmed the existence of a local excess with different geographical zones, age categories and time periods(9 – 13).
報告のある198カ所のうち、三カ所の患者集団が過剰に存在するところが前述の評価基準を満たし、確実な患者集団であると考える事ができるだろう。一番古いものはシースケール患者集団であり、イギリス(ウエストコロンビア州)のセラフィールド再処理工場のそばにある。この患者集団は25歳以下でシースケールに住んでいる5例の患者がいる(通常なら一人未満)ことから、1984年に見つかった(文献8)。以後、セラフィールド周辺の状況は、無数の研究で分析が繰り返され、様々な地理的領域や、年齢別分類、年代的区分でも局所的に過剰な患者集団である事が確認されている(文献9−13)。

The second cluster was reported in 1986 in Scotland, near the nuclear reprocessing plant of Dounreay (Caithness). It involved five incident cases observed within a radius of 12.5 km where less than one case was expected(14). Consistent results and persistence of this cluster were confirmed by later studies(12,15 – 17). The third cluster was reported in 1992 in the village of Elbmarsch, near the Kruemmel power plant (Schelswig- Holstein, Germany), involving five incident cases where less than one case was expected(18). Several investigations since then have confirmed the existence of this excess and its persistence in time(19 – 23). Other clusters are well documented, particularly in the UK close to the Aldermaston and Burghfield sites(9,12,24 – 28) and in France close to the La Hague reprocessing plant(29–34), but based on our evaluation criteria, the information currently available about the existence of an excess was not conclusive. For the large majority of the 198 sites, no excess risk was reported.
二つ目の患者集団はスコットランドのドウンリエー(カイズネス州)核再処理工場のそばで1986年に報告された。この患者集団では5人の患者が(通常なら1人未満)半径12.5kmに観察された(文献14)。結果に再現性があることと、この患者集団が持続していることは、後の研究で確認されている(文献12、15−17)三つ目のものは、クルーメル原発のそばのエルブマーシュ村(ドイツ、シエルスウィグーホルスタイン州)で1992年に報告された、5名の患者集団である(通常なら1名)(文献18)。その後いくつかの研究で、この過剰な患者集団が存在し、時間的に持続していることが確認されている(文献19−23)。他にも、イギリスのアルダーマストンとバーグフィールド工場のそば(文献9、12、24−28)とフランスのラ=アーグ再処理工場のそば(文献29−34)で、きちんと調査されている患者集団は存在するが、我々の評価基準では、現在得られる情報では、過剰に患者集団が存在すると結論づけることはできない。198カ所のうち大部分では、過剰なリスクは報告されていない。

ほとんどの大規模調査で原発と小児白血病のリスクは相関していない。

このレビューは、複数の原発などで行われた25の大規模調査をもとに、小児白血病のリスクが原発一般であがると結論できないと言っています。その25の調査の結果は以下のとおり。よく出てくる患者集団の名前を私が注釈としてつけました。
表の前半。

左の拡大。

右の拡大。

表の後半。

左の拡大。

右の拡大。

患者集団が発生する原因についての4つの仮説

このレビューでは、4つの主要な仮説を挙げていて、

  1. 核施設から排出される放射性物質や化学物質によるという説
  2. 子供が受精する前の父親の電離放射線被曝によるという説
  3. 大規模工事による人口流入による住民の混住による感染によるという説
  4. もともと原発予定地にあった、なんらかの白血病の危険因子によるという説

です。

それぞれに関して、簡単に要約すると、

  • イギリス、フランスの例では放射性物質の流出は自然放射線よりはるかに低く説明にならない。ドイツの例ではクルーメルとゲエストハフト原発でも放射線被曝は増えていない。核施設から出てくるかもしれない原因化学物質は同定されていない。
  • 1990年にガードナーにより提唱された父親の職業的被曝によるという説は再現性がとれておらず、他の研究で否定されている。
  • 1998年にキンレンが提唱した、新旧住民の混住による感染が白血病の病因ではないか、という説は、いくつかの研究により支持されている。時間的、空間的に白血病が患者集団を作る報告は複数ある。ただ、病原体は同定されていない。
  • その他、高圧送電線による電磁波、庭や畑で使用される殺虫剤、工業施設に近いこと、自然放射線が高いこと、などが言われているが、確立した物はない。

このレビューの著者達は、感染説が最も有力であると言っています。また、KiKKの研究では、他の研究と整合性がないこと(これはSpixの論文の筆者達も認めている)、大規模調査では、0−14、0−24歳と年代幅をとると白血病は増えていないことを挙げて、批判しています。

以上が、原発白血病の関係の現状です。先日、イギリスでのCOMARE研究がNature Newsに出ていましたが、そこでの論点もすべてこのレビューは網羅しています。原発近傍で白血病患者の集団が発生しているというのは一般化できない、という結論は同じです。『ドイツ原発白血病が増えている』『ドイツ原発で癌が増えている』というのが最近よく流れていますが、それの正体はこういうことです。

おまけ。

小児白血病の論文のKaatschは1998年の論文(Cancer Census and Control 9;529, 1998)で、原発の5キロ以内の小児白血病の増加は有意でない、という論文を出しています。この時は、該当する患者総数12人、そのうち4人はクルーメル原発のそばの患者集団です。クルーメル原発を除けばそもそも増えていないとも言っています。この時は患者の範囲は1991年から1995年に小児白血病と診断された人です。手法は同じ、対照を選ぶ、ケースコントロール研究です。1980年から1990年の患者を入れないと、『増えている』という結論はでないわけですね。