検算してみる。
米国エネルギー省のBeckの論文(EML-378)によると、地表汚染から空間線量への変換係数は、セシウム137で、
1.07E-2 から 2.31 E-3 (µRad/h)/(mCi/km2)
この数値の幅は、セシウムがどのくらい深くに地下に浸透しているかによる。浸透が深い程、土で遮蔽されるから空間線量は下がる。
セシウム137の変換係数の一番高いものを使えば(程度を大雑把に知りたいだけなので、どれでも良い)チェルノブイリの場合は、退避基準は40 Ci/km2だから、
1.07E-2 x 40E3 µRad/h
= 0.428 mRad/h
= 4.28 µGy/h -> 4.28 µSv/h
つまり、おおよそ、5µSv/hが長期に続くところになる。これを年に換算すると、
5 x 24 (hour) x 365 (day)
= 43800 µSv/年 -> 43.8 mSv/年
結局、チェルノブイリでの退避は、セシウム137による長期の放射線だけで
5µSv/hが延々と続く所 = 40-50 mSv/年が続く所
となる。ただし、係数の定義を見ても、地下へ浸透してゆけば、放射線は20%くらいにまで下がることが分かる。このレベルで、『年単位の長期に住んで安全である』と言っている学者も政府その他の機関もない。言っているとすれば、頭がおかしいか、竹槍でB29に勝てる、とか言っている類いである。
飯舘村の値を検算してみる
飯舘村役場の値の場合、3月末の時点でセシウム134が700kBq/m2セシウム137が800kBq/m2であり、半減期の長いセシウム137のみで計算されている、チェルノブイリの立ち入り禁止区域の基準の半分。この空間線量はこの時点で、5µGy/h。
単位を計算し直すと
1 Rad = 10 mGy
1 Ci = 37 GBq
1 km2 = 10E6 m2
なので、
1 mCi/km2 = 37MBq/km2 = 37 Bq/m2
1 µRad/h = 10 nGy/h
だから、さっきの係数効率の単位を書き直すと、
1 (µRad/h)/(mCi/km2)
= 10 /37 (nGy/h)/(Bq/m2)
= 0.270 (nGy/h)/(Bq/m2)
さっきのセシウム137の係数効率を(nGy/h)/(Bq/m2)に書き直すと、
1.07E-2 x 0.270 (µRad/h)/(mCi/km2)
= 2.75 x 10E-3 (nGy/h)/(Bq/m2)
今回の、800kBq/m2が最終的なセシウム137の効果になるから
800 k x 2.75 x 10 E-3
= 2200 nGy/h
= 2.2 µGy/h
飯舘村では、半減期2年のセシウム134とセシウム137が1:1くらいで出ているので、実測線量はこの倍程度の5µSv/hとなっていて、計算はよく合っている事がわかる。これが年単位で続く。結論としては、間違いなく
4月末で5µSv/hを余裕で越えている地域は、人が住めない。
この地図で言えば、その赤い所になる。
高度汚染地域は奇妙な動物の楽園になる
セシウム137に高度に汚染された地域は、生態系のなかでセシウムが循環し、どこかに出て行くということはない。これは、セシウムが物理的に崩壊するまで変わらない。チェルノブイリ近郊では、人がいなくなったせいで、天然記念物のような稀な動物がもどり、野生の天国になっているという笑えない話になっている。あたかも、世界の他の部分とまったく独立に恐竜が棲息するジュラシック パークのサイトBのようなもの。ラジオエコロジー(!)の対象といえる非常に特異な地域である。さらに、セシウムの汚染地域でマイクロサテライトでの突然変異が飛躍的に進むというドゥブロバの論文(Natue, 380:683, 1996)が正しければ、ガラパゴス諸島のように独特の進化を遂げた、世にも奇妙な世界になる可能性がある。これなら科学的な意味でのガラパゴス化である。(もっとも、ガラパゴス諸島の進化は、環境が隔絶されていることでおこっているのであって、放射能汚染による分はない。)
東電は汚染地域を買い上げて、低度汚染物質を保管せよ。
従って、この地域は、土地建物一切を東電が買い上げるしか方法がない。住んでいた人はあきらめて、他の地域へ移住せざるをえない。ここにあった自治体はすべて消滅することになる。いくら希望的観測を述べた所で、ふるさとに戻りたいといったところで、物理法則と、核種の崩壊の早さは変えられない。この地域は、今後いろいろな所から出てくる、低度汚染物質を置いておくところとしてしか使えない。幸か不幸か、その場所は十分にあるし、もともと立ち入り禁止なので人に危害が及ばない。これら、低度汚染物質も、東電アトミックランドに人が入れるようになる頃には無害になっている。