1997年のゴメル地域での検屍でのセシウム137は各臓器において小児の方が多い。

ゴメルはベラルーシで、チェルノブイリ事故でのセシウム汚染が最も高い地域です。図1に示されているように、調べられた全ての臓器で、セシウム137は小児の方が多い。この事自体は、子供の内部被曝の危険性が高いということを示唆しています。ただし、この図…

1997年に行った10歳以下の6例の子供の検屍の結果は、心臓、甲状腺、副腎、膵臓に非常に高いセシウム137の集積を示す物がある。

これが、表1に示されているものです。人の筋肉のカリウム40が100Bq/kgであることを基準に考えると、非常に高い値であることが分かります。ただ、この表1のデータは、次に説明する図1と一致していないし、(図1では甲状腺の平均は1200Bq/kg、この表…

セシウムとカリウムは似た挙動を示す。

最初に、復習します。周期律上セシウムはカリウムと同じ仲間で、セシウムの体内の挙動はカリウムと似ていると考えられています。カリウムは細胞外液には乏しく、細胞内に貯留されるので、量としては体内の最大の実質臓器である筋肉がほとんどを占めることに…

バンダジェフスキーの論文

以前、汚染地域でのセシウム集積についての論文を読みましたが、近頃、セシウムが甲状腺に集積するという話が出てきています。その元となっている論文は、 Chronic Cs-137 incorporation in children's organs Y. I. Bandazhevsky Swiss Med Wkly 133: 488, …

セシウムは甲状腺に集積して、甲状腺癌を引き起こすのか?

結論から書くと、ある程度は集積するかもしれないが、極端に集積する訳ではない。ただし、小児甲状腺癌は引き起こさない。なんだか歯切れが悪い結論ですが、この甲状腺や、内分泌器官に集積すると主張しているのは、私の知っている限り、バンダジェフスキー…

おまけ。

小児白血病の論文のKaatschは1998年の論文(Cancer Census and Control 9;529, 1998)で、原発の5キロ以内の小児白血病の増加は有意でない、という論文を出しています。この時は、該当する患者総数12人、そのうち4人はクルーメル原発のそばの患者集団…

患者集団が発生する原因についての4つの仮説

このレビューでは、4つの主要な仮説を挙げていて、 核施設から排出される放射性物質や化学物質によるという説 子供が受精する前の父親の電離放射線被曝によるという説 大規模工事による人口流入による住民の混住による感染によるという説 もともと原発予定…

ほとんどの大規模調査で原発と小児白血病のリスクは相関していない。

このレビューは、複数の原発などで行われた25の大規模調査をもとに、小児白血病のリスクが原発一般であがると結論できないと言っています。その25の調査の結果は以下のとおり。よく出てくる患者集団の名前を私が注釈としてつけました。 表の前半。 左の…

局所的な白血病患者集団は存在する。しかし、原発全部には一般化できない。

この論文は局所的な研究についても述べています。この特定の患者集団は、実は、有名な物が繰り返し出てくるので、細かくなりますが、出しておきます。 Among the 198 sites reported, three excesses met the stated evaluation criteria and could be consi…

原発一般では、小児白血病は増えていない。

原発一般で小児白血病が増えているかどうかを知るのには、レビューを調べるのが簡単です。私が良いと思うのは、Laurier, Radiat Prot Dosimetry 132:182, 2008です。この論文は、2008年の時点でpubmedに載っている関連論文を全部集めてその分析をしてい…

ECRRの主張する被曝によるがん患者の増加は過激な誇張

こういう論文から、ECRRへ至る論理はどうなっているのか、というと、(1)ドイツの原発の原発近傍でいくつかの小児白血病の患者集団がある。(これが最初の事実)個別の患者集団を*原発すべて*に一般化して、 (2)従って、『原発近傍に住むことは小児白…

ECRRは論文著者が言っていない事を言った事にしている。

ECRRが言っていたことを再掲すると、 ECRR 2010 p130 Recently, a study of childhood cancer and leukemia by distance from all the nuclear sites in Germany from 1984 to 2004 unequivocally demonstrated the effect; in children aged 0-4 the risk w…

この論文の2つの特徴は、『原発からの距離』との関係であること、『因果関係』ではないこと。

前述の、80年代では有意になることが90年代では有意になっていない、という問題のほかに、Kaatsch, 2008の論文と同じく、この論文には大きな字で『ただし』と書いておかなければならないことがあります。 もともと、このKiKKの二つの論文で本当に言いた…

計算モデルを変えても、有意差が小児白血病に由来することは同じ。

表4。 左半分の拡大。 右半分の拡大。 この状況は、計算モデルを変えた場合でも同じ。結局、小児白血病のみ差があります。以前にKaatsch, 2008の所でも書いたように、この小児白血病が有意になる理由は、いくつかの小児白血病の集団があって、その30数人…

『癌が増える』のは小児白血病の患者集団をまぜたから。

それで、表3に載っている結果をみると、全癌では、距離に従って癌が増えるというモデルで有意差があるが、その癌の分類をみると、実は白血病でしか有意でない。小児白血病以外の癌患者は有意ではないし、そもそも中枢神経の腫瘍は原発のそばに寄ると減って…

この論文は前のKaatschの論文と手法データは同じ物

上の図1に載っている地図が研究対象となった原発です。小児白血病患者集団がいることが分かっているクルーメル原発に印をつけておきました。この研究の方法は、前に書いたKaatsch、2008の時と、全く同じです。というよりも、実は、同じデータセットを使って…

Spixの論文は放射線被曝ががんが増えている原因であるとは言っていない。

実際にこの論文の結論では、 In Germany 1980–2003 we see an increased risk for cancer in children under 5 years of age, particularly leukaemia, when living in proximity (power station. This observation is not consistent with most internation…

1980年から1990年の患者集団を入れないと、がん患者が増えているという結果にならない。

表5。これまでのドイツの研究の要約。 左側の拡大。 右側の拡大。 ここで表5をみると、これまでのドイツの疫学調査での結果は有意差なしとありの二つのパターンがあることが分かります。この結果をみると、有意差があると結論を出しているのが、3つ、ない…

もう一つのドイツ原発で癌が多いという論文を検証してみる。

ECRR2010で低度被曝の放射線リスクがICRPの言っている数字より1000倍くらい大きいと主張している話は、『私がECRRを狂気の集団だというわけ』のところで書きました。そこで根拠として、Kaatsch, 2008とともに挙げてあったのが、Spix, Eur J Cancer 44: 275, …

トンデルの論文と、LNTを使ってECRRは10年で10万人という福島リスク計算を出している。

元に戻ってECRRは福島リスク計算をどうやって出したのか。 2µSv/hで100キロ圏が一様に汚染され、全部セシウム137だと仮定した。 空間線量のデータから逆算して表面汚染の崩壊数を計算した(空間線量と表面汚染の関係は以前に書きました)。 放射性物質…

120kBq/m2程度の汚染では、癌のリスクは他の環境因子の影響よりも小さくて問題にならない。

では、このトンデルの論文から分かる事は何か。それは、セシウム137の120kBq/m2くらいの汚染がおこったスウェーデンでは、癌や死亡率などは他の環境因子(例えば都会に住むことなど)の方が大きく、少なくとも10年くらいの観察では、問題にならない大き…

独立していない数字で補正しているのは、ほどんど漫才。

しかも、この補正、よく考えるとおかしなことが分かります。人口密度によるリスクと、コミュニティの分類によるリスク、肺がんのリスク、全癌のリスクは独立なんでしょうか?こんなの独立な訳はありません。 昔聞いた漫才で、お父さんはよく働いている、とい…

補正を重ねた数字に、有意差なし。

放射能汚染で癌がおこるためには、『問題の』60−79kBq/m2のところでも癌が増えてもらわねばなりません。それで前述の補正を重ねて出してきた数字がこれです。 左側を拡大する。60-79kBq/m2の所に注意。 右側を拡大すると、60-79kBq/m2のところが線量に応…

都会に住むだけで癌は5−16%増える。

これがトンデルの出してきた、補正一覧です。 左側の拡大。最初の欄Aをみると、人口密度が40人/km2以上になるだけで癌のリスクは1.09から1.10になります。 ちなみに、トンデルはもっともらしい数字を出そうとしてこんな補正を出してきたのでが、トンデルの主…

トンデルのデータそのままでは、汚染濃度60−79kBq/m2のところでは、死亡者数は1割減る。

これが、全死亡になると、もっと変なことになって、増えているのは、40−59kBq/m2と、80−120kBq/m2のところだけ。残りの死亡率は減っていて、『問題の』60−79kBq/m2のところは1割以上も減っています(0−3kBq/m2のところと比べて88.9%)…

トンデルのデータそのままでは、汚染濃度60−79kBq/m2のところでは癌はちょっとだけ減る。

ここで問題が出てきます。この場合、データを載せているので計算ができてしまいます。生データからそのまま計算すると、60−79kBq/m2のところでは0−3kBq/m2のところに比べて、発癌比率がほとんど同じ。男は、102.3%ですが、女は97.6%。図で…

トンデルの論文の主張

トンデル論文の主張を簡単に書くと、こうなります。 1986年から1987年の値を基準にして、種々の補正を加えた結果、1988年から1996年のスウェーデンでの癌の発生率を調べると、セシウム137の100kBq/m2の放射性物質降下に対して、癌の比率…

もとの論文の表題を見てみる。

もとの論文は、J Epidemiol Community Health 58:2011, 2004 です。 私は普通こういう論文の表題だけをコピーするなどということはしないのですが、今回は例外です。 何か、ECRRが参考文献に載せているものと違いませんか?普通に注意力のある人には、ECRRの…

ECRRは「今後10年間で10万人が癌で死亡する」と主張

ECRRのクリス=バズビーはこのとんでもないリスク計算なるものを発表しています。 ECRR Fukushima Risk Calculation p9 Assuming that no one moves away and that the contamination remains at this level, using the Tondel et al 2004 regression coeffi…

科学と倫理は関係ない。『いわゆる科学的真理』と『いわゆる社会的倫理』が結びつくと問答無用のファッショな社会になる。

科学の方法の内部には倫理はありますが、社会的な意味での倫理は全く別問題で、科学そのもので社会倫理を規定する事はできません。例えば、今回でも、『ドイツ政府の研究では原発近傍5キロで小児白血病は2倍になる』話は、何度も出てきていますが、あれは…